『一人で買い物かい?お嬢ちゃん』

悪気は無かった。満開の笑顔を咲かせながら紙袋いっぱいに果物を詰めている店員は、を見てそう言った。



『・・・え、っと。はい。そうです』

ここは夏島の夏。 茹だるような湿気と、じりじりと肌を焼き付けるような太陽が空気を支配している。 肌を出していると火傷になると、ナミから預かった大きな布をすっぽりと被ったは頬をかいてそう答えた。

麦わらの一味でもチョッパーの次に背の低いだったが、流石にこれには一度目をぱちくりとさせた。 年齢よりも若いと言われた事が無かったとは言わないが、自分が「お嬢ちゃん」と呼ばれるほどに若く見られた事は無かったから。 この状況はこの布で顔半分が隠れているから、だと思いたい。

『偉いね、おまけだよ』

「一つしかないから、今食べちゃいな」と、にっこりと笑った店員は 紙袋をに持たせた後、良く冷えたフルーツを差し出した。 両手いっぱいに抱えた紙袋を身体に預け、巧く片手に持ったはそれを受け取って小さく礼をする。

『有難う御座います』
『ふふ、本当にしっかりしているね』

まぁ、おまけが貰えたならラッキーか、とは思った。 自分が幼く、いや、「若く」見られたからと言って別に誰が損をするわけではない。

『いただきます』

受け取ったフルーツによってひんやりと手元に冷気を感じ一瞬だけ手の汗が引いた気がした。 一口大の大きさのそれを食べると、喉にフルーツの果汁が潤いを与える。 「美味しい、本当に有難う」と店員に眉を下げていると、



『お、ちゃん。見っけた』
『おわっ!』

後ろから突然声が聞こえたと同時に、ひょい、と手から紙袋が離れた。 慌てて振り返ると、が懸命に持っていた紙袋を楽々と手に抱えたサンジがにっこりと笑っていた。

『サンジさん!』
『なかなか帰らねぇから、迎えに来た。・・・また試食に捕まってたのか?』
『う、ゾロさん。・・・すみません』

その後ろにはゾロ。仏張面のゾロはの顔を見て状況を理解し溜息を吐く。 彼女が試食を食べ歩きながら何処かへふらりと行ってしまうことは珍しくない。 けれど恐る恐る頭を下げたを見て、「仕方の無い奴だ」と小さく笑った。



『あら、アンタたちこの子のお兄ちゃんかい?』
『あ?』
『おれたちが?』

店員がそう言うとサンジとゾロは同じような顔をして眉を顰めた。
お兄ちゃん?自分が?誰の?もしかして、

『一人で買い物なんて偉いねって言っていたところなんだよ、ね?』
『へへ』
『へへ、って・・・』

「やっぱり」、「否定しないのか」、とサンジとゾロはそれぞれ思った。
まぁの見た目が頼りないのは仕方ないとしても、こちらが兄に間違われるだなんて心外だ。 自分との背の按配は男女の比率としては理想的だと思うし、 外を連れて歩いけば「彼女だ」と言わんばかりの顔をしてきた。 だからそんな風に思われることがあるなんて夢程にしか考えてなかった。 けれど、嬉しそうに笑うを見て、「違う」とは言えない。



『兄弟みたいに見えますかね?』

帰り道、サンジとゾロの間を歩くは変わらずニコニコとした表情で二人にそう問う。 複雑な心境だったが、どうしてか嬉しそうなを挟む二人はやっぱり否定出来なかった。

『嬉しいですね!』

こちらは意中の相手を妹だと間違われたのに、何が悲しくて嬉しいと頷かなければならないのやら。
ぎこちなく首を縦に動かした二人を他所に、足取りの軽いは一人先を歩く。 反対に、足取りの重〜くなった二人は同時に溜息をついた。

『・・・お子様にもほどがあるな。ま、そんな所も可愛いんだけど』
『ふん』

サンジがぽつりとそう言うと、「もう自分は諦めきった」と受け取れる答えが返ってきた。 相容れない恋敵だが今は至極自然と互いに共感の想いを抱く。 二人は暫し視線を合わせ儚い気持ちに苦笑いを浮かべると、どちらともなく歩き出した。

ちゃん!』
!』



『―はい?』

二人に呼ばれ、は振り返る。 その瞬間、の両手は風のように浚われた。

『え?』

浚われた手の右はサンジに、左はゾロによって繋がれた。
状況が読み込めずぽかんとしていたを悟ったサンジは優しさに目を細めて彼女を見る。

『あれ?家族と手を繋ぐのって可笑しい?』
『え、えと・・・』
『行くぞ』
『あ、はい』

言葉に迷っているの思考を止めるかのようにゾロが一言だけ言い放つ。
ぐい、とほんの少し強く引けば、納得出来たのかはまた同じように笑って歩き出した。

の笑顔と手の温もりに、サンジもゾロも顔が緩んで仕方が無い。
まだまだ暑い潮風も、どうしてか心地よく感じるほどで。



―本当はこんな位置で終わってやるかと思うけれど、今は彼女が嬉しいのなら―








(ご協力有難う御座いました!) 2011/05/12

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