ゾロは座禅を組み、神経を集中させた。 視界を暗闇で塞ぎ、全ての音を遮断させ、次第に自分だけの領域へと達する。 感じる風も、不規則な波の音も、心地良い揺れも、眩しい太陽も、今だけは違う世界に置き去りにして。

そう言った時間は彼にとって大切で大事で、一日の幾らかをそれで潰す。自分を高め強くする糧だ。 これを苦だと思ったことは無い。辛いと感じる事もない。 ただひたすら強くなる為には必要な過程だと自覚しているから。

集中すると、次第にひんやりとした感覚が自分の身体を覆う。 どんなに暑くても寒くても、一定の体温になっているのだろうかと思うくらいだ。 それは完全に神経が研ぎ澄まされている状況で、その時のゾロは「無」に近い。 世界を邪魔する何にも成らず、世界と融合する何にも属するような。

『サンジさん!良い匂いがします!今日のおやつは何でしょうか?』

でも、時々微かな声に反応してしまう自分が居る。
ゾロはぱちりと瞳を開くと、声の方向へと振り返った。

ちゃん、君もルフィ並みに鼻が良いな』

緑の芝生がきらきらと光る甲板で、はサンジを呼び止めたようだ。 シャツの腕を捲くったままのサンジは下拵えの合間の気分転換として外に出てきたのだろうか。 猫のような背伸びをしていたところに、満面の笑顔で駆け寄る。

『今日は君の好きなあるものを使ったおやつだよ。何かは後でのお楽しみだ』
『そうですか、楽しみにしてます!』

そう言ったはサンジを見て目を細める。 そしてサンジも同じように、いや、それ以上に優しい瞳でを見ていた。 二人を取り巻く空気は至極淡く、柔らかいそれは触れたら途端に弾けてしまうに違いない。 そんな二人を無表情で見ていたゾロだったが、溜息に似た呼吸を吐く。

食べ物に釣られているとは言え、あんな至福に満ちた顔、自分と居る時に見せてくれているだろうか。 客観的に見ているから、それともサンジの隣で幸せそうに笑っているから、 自分と一緒に居る時以上の表情を浮かべていると変に勘繰ってしまっているのだろうか。

『・・・修行が足りない』

ゾロは視線を外すともう一度瞳を閉じた。深く瞑想をするのではなく、この濁った感情を吹き飛ばす為に。

アイツの隣に居て欲しくないとか、あんな笑顔向けて欲しくないとか、彼女を独占したいとか、 残念ながら自分はこんな時までもはっきりと思っている、ようだ。 いつも突っかかるサンジに対抗する為じゃない。愛玩人形のように隣に置いて安心したい分けじゃない。 恋のような愛のような、けれどもこの想いは、感情は、そんな簡単な言葉で表せるものじゃない。 だって、自分を支配するものはいつだって、









(言葉で表すには酷く繊細で) 2011/07/25

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