水平線から日が昇り、カーテンを閉めていない窓から眩しい程の光が差し込む。 部屋の空気は冷え切っていたが毛布に包まる身体は温かい。 は太陽の眩しさとぬくぬくした心地良さで開かない瞳をそのままに、 もう少しだけ起きずにまどろんでしまおうと思った。

『ん・・・』

毛布を引き寄せ、抱くように腕を回した。「これ」は丁度良い温度で気持ちが良い。 自分を背中までしっかりと覆い、安堵まで植えつける。 頬をつけると少し硬いが、規則的な鈍い音が耳元に聞こえ今一度眠りを誘う。 ああ、本当に硬いのが勿体無い、



『硬い??』

ぱちり、そこでは眼がはっきりと覚めた。 周りを見回すと見慣れた天井に見慣れた壁、見慣れた家具にいつものベッド。 隣で空いた二つのベッドに「ああ、まだナミとロビンは帰っていないのか」、と思っていると、 一つ異質なものが直ぐ其処に。

見れば自分がしっかりと腕を回した先に、しっかりと自分を抱きしめているゾロが居た。

『うわぁっ!?』

驚きに眼を開いたは豪快に飛び起き、一瞬のうちにベッドから離れた。 そして壁に背を預け、ドキドキと鳴る心臓に手をあてる。 ぬくぬくと温かかったのも、頬に感じた硬い感覚も、総てゾロが自分の直ぐ傍で寝ていたからだ。 どうして此処に居るのか、とか、どうして一緒に寝る事になったのか、とか聞きたい言葉は頭の中に浮かんだのだが 巧く言葉が紡げず、変わりにパクパクと口ばかりが動く。

『あー、起きたか・・・』

今のの大声に眼を覚ましたゾロは、眩しさに眉を寄せただけで平静な顔をしていた。 こちらを見る様子もなく、豪快に欠伸をひとつして、気怠るそうに身体を起こす。

『あのな、先に一つ言っておくぞ。昨晩は「お前が」おれを離さなかったんだぞ』
『・・・っ!!』

まだ続く欠伸の合間に、ゾロは呆れ声を零す。 真っ赤になったへ視線をやれば、はびくりと肩を震わせた。

『わ、私何か失礼な事しませんでしたか!?』
『・・・それ、本当に聞きたいか?』
『きっ、』

聞きたくない、は思った。 自分はどんなつもりでゾロを離さなかったのだろう。 一人で寝るのが寂しかった?それともゾロと一緒に居たいと思っていたのか? まさか、そんな。は顔を両手で隠して左右に大きく振った。 何故そんな真似をしたのか自分でも分からない。 こうやって一緒に寝ていたのだから、多分ゾロの言う事が正しいのだろう。 じゃあ、何で?やっぱりゾロと居たかった?広い部屋で一人で寝るのが寂しかった? この気候がとても寒いから温もりが欲しかった?―そうだ、きっとそうだ。此処が雪が深く積もるほど寒いからに違いない。

『本当に、聞かないで良いのか?』
『・・・はい』
『嘘付け。知りたいって顔してるぜ?』
『うぅ・・・』
『ほら、耳かせ』

自己完結をしたくせに、やっぱり気にはなる。 本当の事を聞きたくないと思っていても、正直な頭の片隅では気になって仕方ない。 は少しずつベッドへとにじり寄り、淵に手をついて身体をゾロへと傾けた。すると、

「   」

聞こえてきたのはゾロの声ではなく擬音。 ベッドから身を乗り出したゾロは耳打ちをしたのではなく、の頬へ唇を寄せた。 まるで彼からたてられた音とは思えないほどちゅ、と軽くて可愛らしい音が耳に届く。

『!!』

は不意に感じた頬の温もりに吃驚し、そのまま言葉を失い固まってしまった。 身体も表情も思考も総て、今は思うようにする事が出来ない。 ゾロはそんなを見て、してやったりだとニヤリと笑う。そして、



『邪魔するなよ、ウソップ』

そのまま悪そうな、いや、悪い顔をしたままのゾロは入り口に視線をやってはそう吐いた。 その言葉にハッとしたがゾロの視線の先を追うと、 いつの間に其処へ来ていたのだろう、扉の影には険しい顔をしたウソップがごくりと息を呑んで潜んでいた。

『お、おれは朝になってもまだ飽きずに酒盛りしてるあいつ等を代表してナミに様子を見てきてくれって頼まれて・・・。 いや、決して二人の邪魔をするつもりじゃ・・・っ!』
『♪ж☆£ИΘψ♯〒っっっ・・・!!』

今の様子を目の当たりにした事で顔を赤くさせたウソップは両手をぶんぶんと振り息継ぎも無しに言い訳をする。 まったくの勘違いをされては更に絶句した。 見られた、見られていた。どこから?どの辺りから??完全に勘違いされている。早く誤解だと伝えなければ。 視界の端でにやにやとするゾロは、身を潜めていたウソップの存在を分かっていたのだ。 分かっていて、彼はわざと 二人を困らすような真似をのうのうと仕出かした。

『悪ぃ!おれ、戻るわっ。この事は皆に黙っておくからよ!』
『ちょっ、ウソップさん!待って!』

が声を張り上げるも、逃げ足が一流な彼は少しも振り返らずにその場から消えた。



『あああ貴方は、また私をっ!か、からかって!!』

怒ってるのだろうけれどまだまだ熱を含むの赤さは天井知らずだ。
そんな彼女に謝る事も、真実を語る事もせず、ゾロはただカラカラと笑うだけだった。









(このおれを一晩我慢させた仕返しだ) 2011/04/28

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ありきたりな展開だけど、やりたかった。そして一晩我慢した意外と紳士なゾロ(笑