まだまだ続く今宵の晩餐。
がラウンジを離れたのは、ほんの少し酒に酔った自分を醒ます為だった。

基本的に、酒は好きでも嫌いでもないが自発的にはほとんど呑まない。 今夜は珍しい酒だからとナミに勧められ少しだけ口にしたのだが、 思った以上にアルコール度数の強い酒でたちまち自分の頬は熱くなってしまった。

夜の航海だってあるのにこのままつぶれてしまってはいけないと思ったは 騒がしいラウンジからひっそりと、誰にも見つからないように甲板へと足を運んだ。



『ウソップさん・・・?』

しかし、外には既に人影があった。 いつの間に抜け出したのであろうと思ったが、あれだけ騒がしかったら自分のように抜け出すのは簡単だ。 見れば満天の星が散りばめられた空を一人、ウソップが見上げていた。

『あ?か、どうした?』

の呼びかけに、ウソップはゆっくりと振り返る。

『ちょっと酔い醒ましに。ウソップさんは?』
『おれもだ。今晩見張番だからなー。酔って寝たらナミに殺される』
『私もそれで』

理由が同じ二人は、顔を見合わせて笑った。 本当なら皆と同じように食べて呑んでをしてしまえたら楽しいのかもしれない。 そうしてしまい寝てしまっても、きっと文句は言われるがそれまでで許されるのも分かっている。 けれど二人はそれでも、と理性を保つ。当たり前の事だが、大切な事だ。



『凄い綺麗な空・・・』

そう言ったは、ウソップの隣に立ち同じように空を見上げた。 手すりに手をかけ数え切れないそれに溜息を零す。 それに気付いたウソップがを見た途端、瞬き以外の動きが止まった。

ラウンジから聞こえて来る仲間の声よりも大きい波の音と緩やかな潮風が 二人きりの世界だと言葉のように告げる。

『空気が澄んでるからでしょうか』
『あ、ああ・・・』

ぎこちない答えを返してしまうのは、きっとこの余りにも美しい星空のせいだ。 彼女を包む景色は感傷的な表情を普段のものよりもグッと綺麗に見せ、ドキリとウソップの胸を鳴らす。 純真なと、見渡す限り煌く星星。 地平線ギリギリまで広がるそれはまるでを輝かせる為だけに存在してるんじゃないかと ぼんやりとしているウソップに錯覚させた。



『あ、流れ星!』

その言葉に、ウソップはハッとした。
ついつい見惚れてしまった姿勢を直し、自我を取り戻す。 いけない、と頭をかけば何やら真剣に願い事を始めたが視界に入りウソップは首を傾げた。

『あ〜あ、消えちゃった・・・』
『願い事か?えらいムキになってたな』
『はい。強くなりますように、って。星に願うなんて怠惰な事なのかもしれませんが 今晩の星は一際綺麗だから叶うんじゃないかって』
『え?お前十分強いじゃないか』
『いいえ、私なんてまだまだですよ』
『へぇ・・・』

あれで?とウソップは苦笑いをした。 彼女はこれと言って力が強いわけではないが、身のこなしは猫のようにしなやかで早い。 何より戦闘での判断力は特に長けていて、考えられた彼女の戦いに敵は見事に嵌っていった。



『では、そろそろ戻りますね』

本当はもう少し此処に居たいけれど酔いは醒めてきた。 それなりに戻らないとナミに気付かれ、席を外していた事を咎められそうだとはウソップへと笑う。 その笑みを返すかのようにウソップは確かに、と頷いた。 ナミは自分の好みのものをお気に入りの彼女に飲ませたいのだろう。 もう少しだけ付き合う、と言うとはラウンジへと向かった。



がドアを閉めるまでずっと見ていたウソップだったが、ふと我に返ったのか首を左右に大きく振る。 の事は好きだがそれは勿論仲間としてで、特別な感情な分けじゃない。 確かに可愛いところも素敵なところもあるが、だからと言ってこれ以上の想いを抱くわけでないのだ。
それに、

『・・・おい、ウソップ・・・』
『こんなロマンチックなトコで二人っきりだぁ?何してたんだ、テメェは』

いつの間に現れたのやら、ウソップの後ろには聞きなれた二人の男の声。 ちらりと首だけ振り返れば 一人は星夜でもキラリと光る鋭い刀を手にしているのが、一人はスタイリッシュな片足をゆらりと上げたのが見えた。



ウソップは一人ごちる。
―それに、この二人の想い人を自分が好きになるわけないじゃないか。ややこしいにも程がある―



『・・・、もうお前十分強いじゃないか・・・』

力を持っているにも関わらずこんな強豪二人が背後に居てこれ以上強くなる必要はないんじゃないか、と の消えていったラウンジに視線をやったウソップは涙目のままそう呟いた。








07.たとえば、なんでも1つだけ願いが叶うなら
(願いが叶うなら、どうかおれを助けてくれ!) 2011/04/10

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