『あ〜あ、』

楽しかった晩餐の終わり、ただ一人後片付けをしているサンジを見つけ大変だろうと 手伝っていたが、食器を運びながら小さく溜息をついた。 決してサンジに聞かそうと思ったわけでも、理由を聞いて欲しくてこれみよがしに溜息を零したわけでもない。 極々自然に、つい出てしまったのだ。 それに、シンクに向かうサンジには背を向けていたし、一番離れているだろうところで寧ろ聞こえない程度だったろうに。
けれど、

『どうした?』

洞察力が鋭いのか、それともやっぱり思っていた以上に大きかったのだろうか。 瞬時に気付いたサンジは後姿のままのに問う。



本当なら、気にも留めない程度のものだったろう。 これが以外ならきっと気付かず、何事もなかった。 でもやっぱり自分が心から気にかけている相手。 サンジはこの小さな変化を見逃さなかった自分に自分でも驚いた。 そんな事を思っていると、カチャリと高い音を鳴らせたが振り返り、眉を下げてサンジを見た。

『・・・今日私が見張をしてた間に、ナミさんとロビンさんが買い物に行ってたんですけど、 わざわざお土産にお洋服を買ってきてくれたんですよ』
『へぇ、良かったじゃねぇか』
『でも、お二人になら似合うけど自分にはどうも・・・』

そう言っては首を傾げた。 買ってきて貰った洋服を思い浮かべて、あれは・・・と更に一人ごちる。

『着てみたのか?』
『いやいやいや!あんな露出の高い服・・・っ!!』

其処でサンジの勘は働いた。大方ナミの趣向だろう服をあげたのか、と。 考えてみればはそこまで派手な服を着ることはなかった。 と、言うかナミほどの格好をする女の子はそうは居ないだろう。

『あの服はナミさんやロビンさんくらいの身体じゃなきゃ似合わないですよ。あんな身体になりたい・・・』

ポツリと零したは、下に視線を投げて見える限りで自分の身体を見る。

『あ〜あ、二人のどっちかになりたい・・・』

そして同じような溜息をもう一度零した。



『そんな事言うなよ』

洗い物の手を止めずにサンジは小さく笑みを漏らす。 そんな事を考えてたなんてなんて可愛い。 いや、それでも彼女にとっては深刻な問題なのかもしれない。

『ゾロさんにも「似合わないだろ」って言われましたし・・・。やっぱりお二人は素敵です。 二人になれたらそうも言われないだろうに・・・』

口を尖らせたに、あの迷子マリモ、とサンジは舌打ちをする。 あの野郎は彼女が貰ったものを広げた時近くに居たのだろうか。 そして彼女が服を宛がった時に「似合わない」とそう思いそんな事を軽々しく口にしたのか。 そもそも、何で会話の端々に名前があがるほどいつも近くに居るのか。 そして極め付けその会話では「ゾロの為にあの二人のようになりたい」と聞こえるじゃないか。 そんな事を考えているとジワジワと苛立ちのような小さな感情が沸きあがる。



『おれはちゃんの事、魅力的だと思うから』

負けんとばかりに、サンジは洗い物をしていた手を止め、真摯な瞳でを見た。 皿を持ち運ぼうとしていたは足を止め、その瞳の力に思わず身体を固まらせる。 サンジの想いはしっかりとの胸の奥をドキリと鳴らせたが、普段の態度のせいだろうか、

『サンジさんは、いつも優しいですね』

は照れる事無くさらりと返した。

『・・・おれは本気だよ』

そう言うと再びサンジは洗い物を始める。 無理に伝えたいわけじゃないし、今伝えても答えは分かっている。 この恋は自分にとって初めてなほど大事でゆっくりで良いと、そう思っているから急いたりはしない。 今はただ、この距離で笑っていて。

『・・・じゃあサンジさんは、私になりたいと思ってくれます?』

上手に積み上げた皿を運びながらおずおずと聞くの突然の質問にサンジは目を丸くした。 女性のが女性のナミやロビンになりたいと思うのなら、 男のおれが男のゾロ・・・いや、それ以外の男になりたいと思うのなら共感もし易いが、 好きな子になりたいかと言われたら、それはそれで考え難い。と、言うかなってしまいたくはない。

『おれが・・・?』
『あ、困ってますね!やっぱり魅力的なんていつものお世辞なんだぁー!』

多少の期待を込めていた瞳が、サンジによる暫しの沈黙で歪められる。 複雑な気持ちなが持ってきた皿はグラグラと揺れてその心情を表していたが、 流石に危ないと思ったのか丁寧に置いては隣に居るサンジへと視線を投げた。

『ち、違うんだ。なりたくないんじゃなくて、想像出来なくて・・・』
『もう!本当の事言ってくれたら良いのに』
『あ、』
『え?』

「想像出来た」、サンジはに言うわけでもなく呟く。本当に、ふと、彼女になれたら言いたいと思った。
でも、これは彼女が求めている答えとはちょっと違うけれども。

『おれが君になれたら、』



そうだな、あのクソマリモ剣士に「大嫌い」だって、そう言うよ。








04.たとえば、あの子になれたら
(そう言ったら、あいつはどんな顔をするんだろう) 2011/04/07

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