ふと、甲板を鳴らす雨粒の音が聞こえてゾロは目を覚ました。
今が何時だか分からないほど寝耽っていたらしく、広いラウンジも自分自身も深い暗闇に飲まれている。
目を凝らさないと殆ど見えない視界を助けるように、ゆるりとした唯一つ在るランタンの光りだけが辺りを照らしていた。
雨音の合間に一つ、二つ、・・・仲間全員の寝息が聞こえる。
今日は比較的安全な島の港に停泊しているからだろうか、気の向くままに食べて呑んで、いつしか皆寝てしまったのだろう。
ゾロの目が段々と闇に慣れてくると、少し離れた隣にが居た事に気づいた。
ゾロが近づきそっと様子を見れば、椅子に凭れる彼女の健やかに眠る表情が伺えた。
少々の薄着をしていたせいか、彼女は小さくくしゃみをし、ゾロは覗いていた自分の身体を慌てて離す。
小さく何か声を漏らしたので、自分のせいで折角の睡眠の邪魔をしてしまったのではないかと思ったが、
すやすやと聞こえる寝息によってそれは杞憂だと分かった。
ゾロは羽織っていた上着を脱ぎの肩にそっとかける。
すると、無意識のうちに温かいものを求めていたのだろうか、彼女はしっかりとゾロの体温を掴んで顔を埋めた。
ゾロは肘を突きながら上着を握る指を愛おしそうに見る。こんな風に、自分を掴んでくれたら良いのにと思いながら。
上着を掴む彼女の指は細く白い。暗闇でも分かる桃色の爪は年頃の女の子と変わらず綺麗に整えられていて、
まるで海賊のものではないようだ。何処かで擦れ違うような間柄だったら、
彼女が帆を張り碇を下ろし、時々戦場に身を投じているなんて、きっと思いもしなかったろう。
ゾロはなぞるように、そっとの指に触れたが深く眠っているらしくぴくりとも動かない。
そのまま彼女の肩を撫でサラリとした細い髪に触れ、最後にはふっくらとした頬へ移動した。
温かい彼女の温度は心地良く、出来る事ならその熱に微睡んでみたいとゾロの芯が震える。
太陽を好む花のように笑い、春風に舞う蝶々ように心に入り込んできた彼女の、無防備な寝顔。
ああ、あの日、この瞳が開かれ見つめられたあの時に、一瞬にして自分の心は奪われてしまったのかと思うと、
どうにもにやける顔を隠せないくらい可笑しかった。
自分はただ、世界一の剣豪になる事しか考えてこなかったのに。
ゾロは静かにを引き寄せる。
ポスンと腕の中に納まったが相変わらず寝ているので、容赦なくぎゅっと、抱きしめた。
寝てるなら、どうかこのまま。
明日の朝、誰に見られてもか構うものか、そう小さく漏らしたゾロは優しくの瞼にお休みと甘い口づけを落とし、至極幸せな眠りについた。
―誰かをこんなに 愛しいと思う日がくるなんて、
03.たとえば、明日太陽が昇らないなら
(暗闇を揺蕩う姫に悪戯な口付けを) 2011/04/14
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