『黙れこのエロコック!』
『なんだと?このクソマリモっ!』
特に変わった様子の無い昼下がり。
いつ何処でどうなるか分からないこの海だが、頬を撫でる落ち着いた空気にナミはふぅと一息漏らす。
ウッドデッキに腰掛けて空を見ればそれはもう真っ青に澄んだ雲ひとつ無い空間が広がる。
『だいたいテメェはいつも・・・!!』
『お前人の事言えんのかよ・・・!!』
ナミはそれらを見渡し自然に出ている笑みを自覚しているだろうか。それほど、美しい空。
こんなに綺麗なものをしっかりと見ていなかった今までの時間が勿体無いくらいで、
ナミの口からは思わず溜息に似た声が漏れた。
『やんのかコラァ!!』
『上等だ!』
『うっさいッ・・・!!』
『チ・・・』
『ナミさぁ〜ん・・・』
ナミの嵐にも勝る大きな制止で、ずっと外野から聞こえていた二人の声がピタリと止んだ。
こんな風景もグランドラインではいつもの事と言えばいつもの事で、どうせ下らぬ言い合いから発展したんだろう。
ゾロかサンジ、どちらからか分からないが安い売り言葉に買い言葉。
ナミは先程とは色の変わった溜息をこれ見よがしにすると、両手を腰に当てて少しだけ二人の下へ近づいた。
『落ち着いたからせっかくゆっくりしようと思ってるのに、何やってんのよアンタ達は』
『だってナミさん、コイツが・・・』
『ああ?お前が、だろうが!』
『んだと!?』
『やーめーなーさいっ!もう、子供じゃないんだから』
今度は片手を頭にあて項垂れる。
お互いを指差し、それからまた言い合い。
終わりの見えない、いや、「無い」やりとりはナミの頭を痛める。
『余計な体力使ってないで、他の事でもしなさい』
お互いが気に入らないのなら、傍に居なければ良いものを。ナミはそう付け加えた。
だいたい、どうせ彼等は本気でお互いが嫌いなわけじゃないのだ。
こんな言い合いをしているくせに、いざ戦闘や船の操縦なんかになると寧ろ気が合うほどで、
こっちが置いていかれそうになる。
こうやって言葉を投げ合うレベルも同じだし、冷静に考えてみれば仲良くなれる種が沢山ある。
この喧嘩ばかりをしてしまう表面を剥ぎ取ってしまえたら、以外に一番分かり合える相手に代わるのではないだろうか。
『本当に子供みたい・・・』
ナミは同じ言葉を言いもう一度嘆息する。そして少しでも、と考えた。
そうだ、彼等が好きなものを引き合いに出してみてはどうか。例えば、
『・・・そう言えば、も心配してたわよ?アンタ達の事。
あの子ったらこっちが呆れちゃうほど本気でね。だからもう少し仲良くしてみれば?喜ぶかもしれないわよ』
『アイツが?』
『ちゃんがおれの事・・・?』
『おれら、だ!』
『ハイハイハイ、だから止めなさいっての!』
言葉を紡げば引っ掛かりあう二人。現状ではどう言ったとしても結局は一緒なのか。
それともこちらがもう少し言葉を選べば良かったのだろうか。
どちらにしろこんなやり取りが続くなら面倒だ。今の呆れ顔のナミにとって二人の仲なんてどうでも良いくらいの領域に入っている。
ただせっかくの今の雰囲気を壊す事無く黙ってくれればそれで良い。
『・・・あんなに心配するなんて、もしかして、はどっちかの事好きなのかしら?』
チラリ、ナミはゾロとサンジを交互に見る。
口にした言葉に意味なんて無い。
ポヤンとしている彼女が誰を好きかなんて誰にも分からないのだから。
ただ単純に、二人がの事を考えて静かになれば良いと、そう思って。
『『どっちか・・・?』』
ナミの投げ遣りな質問は案外、効いた。
二人は視線をあちらこちらに静かに動かし、心当たりを探っているようだ。
自分の事、相手の事、がしている行動。
思い当たる節を見つけようとする顔は真剣で、これなら静かになるかもとナミは口の端を上げた。
が、しかし。
『『おれだな』』
『『は?』』
全く息の合う二人だこと。ナミは緩んだ顔を落胆の色に変える。
『っざけんな!迷子野郎!テメェのどこにちゃんが好きになる要素があんだよ!?』
『テメェこそ色々な女に愛想振りまいてんの見られてよくそんな事が言えるな』
『・・・煩い・・・』
この空を見れない事は勿体無いが、静かにならないのならもう部屋にでも行こうとナミの靴は船板を鳴らした。
10.たとえば、キミが好きだとしたら
(どっちを好きになっても苦労するわね、あの子・・・) 2011/04/08
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