『美味しいです』
『そうかい?もっと食ってくれ』
『はい!』

両手に持った沢山の料理の入った大皿をテーブルに置いたサンジに、はそう言って笑った。
フォークを持たない片手を頬に添えて、押さえ切れない歓喜を表す。 余りにも純真無垢なその笑顔はサンジだけに向けられており、 それを受け止めたサンジは幸せそうに眉を下げて笑った。



そんな二人を、ゾロは酒を喉に流しいれながらぼんやりと見ていた。
いつもの食事の、いつものやりとり。 けれど今日は胸がざわついた。どうしてか今までの自分なら考えないような、少しばかり厄介な思考に駆られた。 食事前に飲み始めたから酒が、過ぎたのかもしれない。

いや、本当の理由は分かっている。あんな笑顔をクソコックに向けたからだ。

コイツはアイツが好きなのか、それともただの思い過ごしで、食いものに釣られているだけなのか。 最近はへの想いが増してしまって、自分でも女々しいと思うがそんな事を不意に考えてしまう。



『へへ。本当にサンジさんは魔法使いみたい』
『ああ?』
『前にも言ったんです。サンジさんて魔法使いみたいだって。だってこんなに素晴らしい料理を作ってしまえるんですよ?』

「あの手で、こんなにも繊細で美しくて美味しいもの」そう言ってはフォークを口に運ぶ。
それはもうこの世の総てで今が一番嬉しそうに、幸せそうに笑って。




『・・・魔法ねぇ』

小さく呟いたゾロはグラスを傾けた手を止めてサンジへと目をやる。
大食らいの船長と人数分の食事は作っても作っても次から次へと消費されているが、 皿は切らせる事無く料理は常にテーブルの上にある。 確かに手際も極めて良く、彼一人とは思えないほど迅速な動きをしていた。 こればかりは彼の方が長けているのは知っていたが、流石に隣で瞳を輝かせられては面白くない。 少しばかり乱雑にグラスを置いて、まだサンジを見ているの髪を引いた。

『おい』
『はい?』
『おれも魔法が使えたら、お前の好きな食べものを毎日だって出してやるよ』
『え?でもご飯はサンジさんが・・・』
『だから、だ』
『は?』

首を傾げるにゾロは真っ直ぐな視線を返す。簡単だ、理由は一つ。



だから、だ。
あのエロコックが作れる笑顔まで、自分のものに出来るから。








01.たとえば、魔法が使えたら
(分かった!サンジさんが大変だから二人でお料理を作るんですね!ゾロさん優しい!) 2011/04/08



ちょっとだけサンジの「真夜中のお茶会」とリンク。

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