サンジが食事の仕込みをしていると、ラウンジの扉が静かに開いた。 潮風の含んだ風と共に広く鮮やかな色の床板に淡い光りが差込み、見ればがひょっこりと顔を出している。

『やっぱりゾロさん、迷子でした』

そう言って腕まくりしながらはサンジの方へ足を運ぶ。 包丁片手にの行動を見れば、黙々と手を洗い近くにあった野菜に手を伸ばした。 買ったばかりでまだ片付けていなかったものを、一つ一つ丁寧に分けて仕舞う。 「有難う」とそう言うとはふふ、っと笑った。

『ゾロさん、もう少しで捜索が必要でした。全然違うところに向かってましたよ』
『・・・あの野郎はいつになったら学ぶんだか・・・』
『天才的な方向音痴ですものね。皆さんが言ってたのがまさかこれほどとは・・・』



はゾロがどれくらいの方向音痴かつい先日まで知らなかった。 知ったあの日も今日のように上陸した新しい島で各々の時間を過ごし、それが終わった後だった。 いざ出発しようかと船長が言った矢先、船員が皆口を揃えて「ゾロは何処行った?」と言い出した。 は首を傾げたが、親切にロビンが理由を教えてくれた。 ―それから、彼女も気にかけるようになったのだ。



『そういや、どうして此処に?』
『え?だってサンジさんが此処に居たから・・・』

はポツリと零す。
いつもなら、ナミやロビンと一緒に時間を過ごすことの方が多いのだが、 今日はどうしてか足がこちらに向いたのだと言う。

まさかゾロが迷子だったとわざわざ伝えに来るわけが無い。 と、言う事は、だ。サンジは何となく分かった。それはきっと先程買出しを一緒にしたせいだ。 自分を置いてマリモの所へ行って用を済ませたその後は、ちゃんと戻って手伝いをしなくてはならない、 と律儀なは無意識に思ったのかもしれない。
ほら、首を傾げるの様子は、子供のようにただただ純粋だ。

「自分が此処に居たから」、とは言ってくれたが いつも期待した分裏切られるから、最近はあまり言葉の意味を考えないようにしている。 でも、自分の事が好きで此方に来てくれたらどんなに幸せな事だろう。 自分が彼女を瞳の端でとらえたら近くに行くように、彼女も自分を見つけて駆け寄ってくれたら。
―クソ腹巻が迷子になってても、自分から離れないで居てくれたら―



いやいやいや、サンジは首を横に振ってその考えを制止した。
そんな妄想、現実に起こるはずがない。完全に妄想でしかないのだから。



『おれも迷子になっちゃおうかなー』
『サンジさんまで迷子になったら大変。迷子にならないようちゃんと手を引いて船まで連れてきますよ』

その言葉に、サンジは一度開いた瞳を細くさせて微笑む。 「手を引いて」なんて、言っている意味分かっているのだろうか。 やっぱり彼女の表情を見ると母親か姉か妹のつもりなのだろうけれど。 それでもサンジは「今」隣に居てくれるの言葉に安堵を手に入れた。








恋色アンチテーゼ
(彼女はあいつが好き?いや、きっとおれの方が好き) 2011/04/06

back