『うわぁ・・・あ』

大きな台車が必要なほどの食材は、どれ程の期間になるか分からないこれからの航海と大喰らいの船長の為。 サンジは様々な島で様々な食材に出会える買出しは好きだが、無駄使いをしてしまう程は購入しない。 だからこれは至って普通の範囲なのだが、 初めてサンジの買出しに付き合ったは、その量に驚き瞳をぱちくりとまたたかせていた。

『随分買うんですね』
『大体いつもこんなもんだ。でも、出発前にはもう一回は行かなきゃなんねーかな』

酒やコーラの樽があった、とサンジは台車を引きながら笑った。

買出しをしている時間は穏やかで、楽しい。食材に囲まれながら売り子と素材のやり取りする時間はまた格別。 おまけにを隣に並ばせられるなんて、更に幸せだ。 今回はずっと買出しに付き合ってくれたし、重い荷物を持っても船までの距離はとても短く感じる。 腕が疲れて動かなくなるまでだって、が居るなら歩き続けても良いと思った。

『あれ?ゾロさんだ』

そんな幸せな雰囲気をぶち壊す、の一言。
見れば大きな道の一本向こうに見慣れた腹巻の男が一人。

『ゾロさん、一人なんですかね?』
『・・・そうみたいだな』
『また何処か行ってしまわないか心配になりますね』

サンジはチラリとを見た。
一人だと迷子になるマリモ野郎に投げる視線はハラハラとして、まるで母親のようであり妹のようだ。 あんまりにもその視線が熱いから、 「大の男だ、ほおって置いても大丈夫だろ」と嫉妬交じりに言いたいのだが あのクソマリモはそれでも迷子になるから言い切れないと言葉を飲み込む。はっきり言って悲しい。

『船まではそう距離は無いんですけど・・・ああ!』

言っている傍から、ゾロは方向を変えた。 少し町並みを眺めていたのか、ただ道を確認していたのか、それとももう既に道に迷っているのか、 どれかは分からない。 けれど確実に船とは違う方向へ歩き出したゾロに、は声を出して慌てる。



『私、船までゾロさんを連れて行きますね』

「船はもう直ぐ其処ですし、これくらいサンジさんなら持って行けますよね」と、 さらりとそう言うは何の躊躇いも無くゾロの後を追って行った。



『ハァ・・・』

さっきまでの幸せな空間はなんだったんだ。急に空いた隣を見てサンジは思わず嘆息する。



分かってはいた、いや、分かってなかったのか。
彼女を死ぬほど好きになってたなんて、離れていく背中に、やっと気付かされた。








センチメンタルコック
(情けないなと思う前に、ただ心が切ない) 2011/04/06

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