『サンジさんは、魔法使いみたいですね』
ありきたりな言葉で申し訳ないんですけど、とはにかんだに、サンジの手が止まった。
時は、真夜中。いつもよりつい遅くなった晩餐からいつもより遅くなった明日の朝の仕込み。
普段通りの仕事を淡々とこなすサンジの姿勢を見ていたは
まだ熱い紅茶にふぅふぅと息を吹きかけていたと思えばサラリと先程の言葉が口をついた。
今夜は彼女にとって思いの他楽しかったのだろうか、
まだ目が爛々と冴えているはカウンターチェアに座りながらサンジの腕をじっと見ている。
『この腕からあんなに美味しい料理が、あんなにいっぱい出来るんですねぇ。凄いなぁ』
手に持つカップの中はもう空らしい、コトリと置いて両手で頬杖をつく。
そのまま調理台に広がる色とりどりの食材を眺めてほぅ、と溜息を零した。
『ああ、そうかい・・・?』
リラックスモードのとは反対に、サンジはどう答えたら良いのか分からなかった。
さらりと「有難う、お嬢さん」と言えば言いのだろうか、それとも「君の為だから作れるんだ」と笑えば良いのか。
あんまりにもキラキラと澄んだ瞳が自分を見つめるものだから、お決まりの台詞が紡げない。
こんな自分が自分じゃないと分かっているのだが、彼女の前だとどうしてもいつもの自分になりきれなかった。
『そろそろ終わるけど・・・、ちゃん寝ないのか?』
『今日は寝れそうに無いです!ああ、でも邪魔だったら見張塔でトレーニングしてるゾロさんの所でも・・・』
『いや、行かなくて良い』
の言葉を遮るように、サンジは手を出してキッパリと言い放つ。
そう言えば今はクソマリモが見張をしている時間だ。
が言うようにどうせ見張と言いつつあいつはあそこでアホみたいな錘をつけてトレーニングしているんだろう。
もうマリモ以外起きていない時間とは言え、わざわざあそこに行かせたくない。
それに、マリモの前で若干の緊張を見せるなのに、どうしてわざわざ行こうとするのか。
―仲良くなりたい?アイツと?―
ふと、脳裏を掠めた自分の言葉をサンジは首を振って制した。
もし、万が一にも、宇宙の星の一欠けらほどでもそうだったとしたら、
彼女の前では自分らしく居られないなんて、そんなの言っていられない。
此処から何処かに行かれるなんてそんなの許せない。
『・・・寝れないなら、ここでおれとお茶でもどうですか?』
自分が出せる一番の良い声でそっと囁くようにに問いかける。
カウンター越しの距離は、ぱちくりとまたたいた表情が良く見えた。
『はい、お願いします』
大きく開かれたの瞳はゆっくりと細められ、笑顔と共に大きく一つ頷いた。
それを見て同じように笑顔を返したサンジは、新しいカップにお茶を淹れ、少しのお菓子を用意する。
そしてニコニコとする彼女の隣に座ると、じゃあ頂こうか、とカップに手を添えた。
『あ〜あ、ずっと、サンジさんと一緒に居れたら良いのに』
『・・・ッ!!』
彼女は何て事を言うんだ。
サンジはまたも身体をピタリと凍らせる。
この言葉はただただ瞳同様純粋で、まったく意図を含んでいないってんだからタチが悪い。
どうせ「それならずっと美味しい料理が食べられるのに」、とかそんなもんしか考えていないくせに。
そんなくせに、こんな事をあっけらかんとした顔で言うんだ。
本当ならすぐさま腕を伸ばして抱きしめてしまいたい衝動を押し殺すかのように、サンジは熱いお茶を一気に流し込んだ。
真夜中のお茶会
(アチッ! あらら・・・サンジさん、そりゃ熱いですよ〜) 2011/04/04
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