「疲れた」とカウンターチェアに腰を下ろしたサンジは、溜息のように言葉を吐いた。

今日は船内の大掃除。いつも寝耽る剣士も、遊びに懸命な船長も、のんびりと過ごす骸骨も、 皆が皆、手に箒や雑巾を持ち、各々に当てられた場所を清掃していた。 自分は勿論キッチンを担当。普段から食事を作る場所として綺麗にする事は当たり前、と気をつけていたが、 更に磨きがかかるよう、これでもかと言うほどの掃除をしてやった。 床、壁、刃物に食器。ピカピカと輝くそれらを見て、サンジは満足そうに笑う。

此処は自分の城で聖域だ。誰も入ってこない、唯一の場所。 自分の知識をありったけ使った料理を作り、心躍る未知の食材たちを捌き、仲間を笑顔にさせる。 料理人として、こんなに有意義な事があるか。

それを集中させてくれるこのキッチンは、この船で大事な、大事な場。
日頃の感謝を篭めて、冷たい水でも構わず掃除した。

そう、此処は誰も入って来ない場所、誰にも入って貰いたくない場所。でも、

『良い匂いがしますよ!サンジさん!!』
ちゃん』

勢いドアが開き、日の光が差し込んだ。 キラキラと輝いた銀のスプーンがサンジの視界に入り、目を細めた。 いや、そうじゃなくてが目を細めるほど眩しかったのかもしれない。 めいいっぱいの笑顔があんまりにも煌いて、輝いていると錯覚するほどに。

『君は本当に鼻が良く利くね。丁度ローズマリークッキーが焼けたところだよ。手を洗っておいで』
『はい!』

サンジがそう言うと、はくるりと踵を返した。 此処に流し台があると言うのに、ご丁寧に洗面所へと行ってくれたようだ。 らしく几帳面と言うか、気が利くと言うか。 自分にとって大切な場所だと言う事を彼女が理解してくれるのが嬉しかった。 サンジは自然と綻ぶ顔を手で隠す。にやける顔が止められない。

『さて、温かいお茶でも用意しますか』



まぁ、でも、彼女だけはむしろこの聖域に入って来て欲しいのだけれど。









(それだけ特別なんだってこと)2011/12/29


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