キョロキョロとゾロが甲板の辺りを見回す。 流石に船内で迷子になったわけではない。 何処でトレーニングをしようか、瞑想をしようか、昼寝をしようか、そんな事を考えてるんだと思うだろう。 自分以外の、「仲間達」は。



手触りの良い木製の手すりに寄りかかり何をするわけでもなく、ただぼんやりとサンジは夜のメニューを考えていた。 煩い船長の為、肉は間違いなく用意するのだが、付け合せは何にしようだとかどんなソースにしてみようだとか。 新鮮な野菜があるからそれも使ってサラダを作るのも良い。 この前釣った魚介があるから、海鮮ものを副菜にしてはどうだろう。 兎に角、人数分以上に食べる連中だ。腹の空かすことの無いように、と。

けれど視界の端、見慣れた緑色マリモヘッドを見つけた途端、そんな事よりも唯一つの事が頭を掠めた。

『あの野郎・・・』

ゾロは短絡的、だと思う。ごちゃごちゃと余計な事は考えず、結論が出ればそれで良い。 認めたくないが、それは自分と似ているからだ。 いや、自分は彼よりちゃんと考える。考えて行動しては居るが、そうじゃないところと妙にシンクロするのだ。 例えば、女の好み、とか。

そんな短絡的な彼が何かをする時にキョロキョロと周りを見回したり、考えたりするだろうか。 勿論する筈が、ない。サンジは無意識のうちに「チ」、と舌打ちを零した。 そんな音は誰も拾わない。ただ波の音に打ち消されるだけだ。

『またちゃんを探してるな』

そう言うとサンジはもう一度舌打ちをした。今度は意識的に。 アイツはいつもいつも、当たり前のようにの傍に居たりする。それが気に食わない。 彼女は色々な仲間達と仲良くしているようだが、その傍らにはいつもマリモヘッドがチラチラと視界に入ってくる。 その「いつも」を見ているのは、自分も似たような行動をしているからなのだが、それは置いておいて。

忙しなく動く彼女の事だ。 今の時間なら大抵掃除か洗濯物をたたんでいるか、それが終わっているのならウソップの嘘話の付き合いや、 ナミと流行の雑誌でも見ているかもしれない、 もしかしたら微かに聞こえて来る船内の、あのブルックの音楽に耳を傾けているのかも。 考え出すとキリがない。きっとあのマリモも同じだろう。見つけるのが難しい時間帯だ。

『さてと・・・』

一息吐いたサンジは、猫のような背伸びをする。
そして船内へのドアを開けると、自分のテリトリーに足を運んだ。



重い音のする大きな冷蔵庫を開けると、ひんやりとした冷気が頬を掠めた。 何処に何が入っているのか、当たり前だが熟知したその手でサンジは適当なものを取り出す。 これは先程作り置いていたたもので、それをそのまま予熱しておいたオーブンに入れると次第に甘いが漂ってきた。 プラリネとチョコレートクリームのデザートグラタン。 熱いお湯を沸かす間に、ソーサを並べ揃いのカップを用意する。香りの高い紅茶葉を選び、今日はコレにしようと決めた。

この組み合わせは、きっと彼女が好きだから。 マリモ野郎なんかよりもずっとずっと自分の方が彼女を知っているし、彼女を喜ばせられる。 大体、あんな風に足を運ばなくたって、



『美味しそうな匂いですね』

ほら、そんな事しなくたって自分には取って置きがある。 色気に欠けるが、手段や理由よりも結果が全てだと思うなら、が此処に居ればそれで良い。 アイツが探し出すより先に、手に入れるより先に、こちらが奪ってしまえばいいのだ。

『好きなだけ食ってくれ』

ひょっこりと現れたは、この甘くて香ばしい匂いに釣られて来たようだ。 サンジが頷きデザート皿を手に取ると、は期待を込めた愛らしい表情でにっこりと笑った。



この笑顔を独り占め出来るなら、どんな手段だってとってやるさ。

『おい、サンジ!おれにもくれ!』

これはこれで、まぁおまけの、要らん奴もついて来るけど。









(ちぃっと待て、ルフィ!お前食い過ぎだろ!!) 2011/06/27

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