『ん?』
『あ?』

サンジとゾロはお互いが正面に居る事に気付き足を止めた。 人々で溢れかえる日の射す市場は活気で包まれ賑やか、それでいてとても広い。 それなのにどうして此処で二人は出会ってしまったのだろうか。 サンジはポケットに両手を突っ込み、ゾロは盛大な溜息を吐く。 「嫌なやつに会った」と言葉にせずとも互いの顔に書いてあり、互いに分かったようだ。

『おい、マリモ。お前何のつもりだ』
『テメェには関係ねぇだろ』
『は?何をしようとしてんのかもう分かってんだよ!』
『じゃあ聞くな素敵マユゲ』

一歩前へと歩み寄るサンジにゾロは嫌悪感を表すように眉間にシワを寄せる。 サンジは鋭い目でゾロを睨むと、自分の後方にある店の看板を指差して舌打ちをした。

『どうせちゃんの誕生日の花を買いに来たってんだろ?』

その問いに、ゾロは何も答えなかった。 ただひんやりとした視線を向けた後、そのまま店の店頭に並ぶ花を眺め見る。 大きな店の前、そして店内をざっと見たところ、 季節の花から温室で育てられた豪華な花、多肉植物や枝の綺麗な木々など、基本的なものは何でも揃っている。 今まで花になんて全く興味の無かったゾロは肩を竦めた。



『お兄さんたち、何かお探しかね?』

その時、二人が険悪な雰囲気を作っている間に花の手入れをしていた店員が気付き話しかけた。 その女性は二人はただの友人か何かで仲良く買い物に来たと思ったようだ。 ニッコリと笑い花が良く見えるように二人の隣に立つ。

『ああ、今日誕生日の子に花をプレゼントしようかと思って』

ゾロと一括りにされたサンジは不本意だったが、それよりも今は目的があって此処に来たのだ。 咳払いを一つして複雑な気持ちを吹き飛ばすと店員に視線をやる。

『今日?それはめでたいね。今日の誕生花はピンクの薔薇だよ。待ってな。良いのがある』

そう言った店員は沢山並ぶ花の中からピンクの薔薇が沢山入った籠を取る。 さっき花屋が水でも撒いたのだろうか。 水滴の残る花弁がキラキラと光り太陽を受け止めようと広がっているそれは、不精な二人の男にも美しいと思わせた。 まるでその姿はのようで、

『「愛らしい」だよ。花言葉は』



サンジとゾロの心を代声したかのような店員の言葉に、二人はドキリと胸を鳴らした。 花と彼女を重ね合わせた自分の思考に余りにもぴったりと当てはまって、思わず自分の心の声が出てしまったのかと思った。 ふふふと何も知らない店員が笑うのを見てバツが悪そうな顔をしていた二人だったが、どちらともなく口を開いた。

『『じゃあそれを、18本くれ』』

耳に入った声に、二人は顔を顰めて互いを見る。全く嫌な所で気が合うものだ。 戦闘中の考え方や、こんな時の行動、そして、女の好みでさえ。



『・・・おい、』

薔薇をセンス良く包装している店員の手元を見ながらサンジは小さくゾロを呼ぶ。 するとゾロはチラリと視線だけサンジに向けた。

『・・・おめでとうはおれが先に言うからな』
『・・・は?先とか後とかそんなの知らねぇ』
『んで、おれが先に気持ちを伝える』
『ふん。やれるもんならやってみろよ』

視線の交わった二人の合間にまた不穏な空気が流れる。

『お前より!おれのが好きなんだからな!』
『おれのが好きだ』
『来年は二人きりで祝う』
『その相手はおれだ』



すっかり包装の終わった花屋が二人の前に花束を差し出したが二人は眼前の自分達しか見えていないらしい。 低く威圧感のある声で互いを威嚇する。 此処でこんな事言い合っても結局は彼女の気持ちが最優先だろうが、二人は根本的な事が分かっていない。 ただただ深く持つ「自分の」愛情のせいで、サンジもゾロもが最後は自分を選ぶと思っているらしい。 恋は盲目と言うが、それは呆れかえるほどで。

『お前とは此処で決着をつけなきゃなんねぇらしいな』
『やるか?』

今の二人は、困りきった花屋が声をかけても暫くは気にも留めないだろう。



来年も、再来年も、そのまた次も、その先も、ずっとずっと好きでいる。





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