『あれ?エース君まだ起きてるよ』
『本当だ、珍しいね』
『いつもより長く彼の顔見れるね』
『でもさ、何か機嫌悪そう』

昼食中、エースの近くに座る女性徒達が互いに身を寄せて小さく囁く。
彼女等は小さな小さなお弁当箱を広げながら、 いつも寝てばかりいる彼の表情を見れる事に喜びつつも、 その不自然さに訝しげな表情を浮かべていた。

授業中だろうが食事中だろうが、いつでも構わず寝ているエースが今朝からずっと起きているのだ。
飽きた表情を浮かべるものの、今日はどうしたことか、どの授業もきちんと瞳を開けていた。
しかしエースは彼女等の反応なんて気にも留めない。 聞こえていたとしても、はっきり言って無反応だっただろう。

それより、自分は今日携帯電話を何度手に取ったか。
朝から変化の無いディスプレイを、頻繁に確認していた。


『おせー・・・』

昼休みがそろそろ終わりかけているけれど、 エースの携帯にはいっこうに待っている相手からメールが入ってこなかった。 無意識には幾度も溜息をついて、携帯に向かっては眉を下げる。

こんなにもどかしく思うのなら、朝会いに行けば良かった?
休み時間も、待つんじゃなくて催促しに行けば良かった?


『・・・昨日の帰りに教えてんだぞ・・・』

そうエースは嘆息混じりに呟くと新規メール作成画面を開いた。
しかしそこで手は止まる。
送りたい相手、のアドレスを知らないのだ。
自分が向こうのアドレスを知っていれば昨夜の時点で送ったのに。

『・・・だからおれから送るって言ったんだ』

昨日、連絡先を知らないと困る事もあるだろうから教えてくれ、と言ったのは
自分がの連絡先を聞こうとチャンスを探っていただけに、 なんと言う絶好の機会だとエースは喜びに肩を震わせた。 まぁそんな喜び、彼女は当然知らないんだろうけれども、それは置いておいて、 聞いたのはの方なのだから一文くらい打ってくれていいだろう。

『メールも出来ないなんて、そんな忙しくねーだろ。お前』

一言漏らしたエースは力なく机に伏せた。多分、期待して待っていても駄目なんだと思う。
もしかしたら用件が出来て初めてメールするタイプのヤツかもしれない。
うん。多分そうだ。意外と淡白だから、彼女。

それにこんな事で腹を立ててるのも器が小さい気がする。
それなら午後、下校時刻になったら直接彼女の元に出向いて 文句の一つでも言ってやろうと思った。

『くぁ・・・』

気を抜いた途端大きな欠伸がでた。良く寝る自身が学校で一睡もしていないのだから当然だ。
昼食なんてどうでも良い、これから下校時間までおおいに寝てやろうかと思ったその時。

やっと携帯電話が鳴った。



『あれ?エース君笑ってない?』
『いや、笑ってないでしょ』
『でもさ、急に機嫌良さそうな顔してるじゃん』
『確かに』
『何か良い事、あったのかな?』
『そんな急に??』

お弁当をつつく彼女等が、瞳をぱちくりとさせた。
少し目を離しただけの時間に、何があったのだろうかと首を傾げて。



【新着メール1件】



エースの機嫌を損ねたのはたったそれだけ。
エースの機嫌を治したのもたったそれだけ。







(「タイトル:です。内容文:放課後図書室で勉強しましょう」) 2013/05/13

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