涼しい風に背中を押された放課後。
少数の生徒と共に校門を出たは鞄の中へ手を入れて何やらガサゴソと探し物をしていた。
エースはそんな彼女の行動を、覗き込むようにして見る。
真剣な顔をしておもむろに出したのは・・・小さな包み。
『なんだそれ?』
エースが聞けば、はふふん、と自慢げな顔をした。
答える事もせず少しだけ顔を緩めて、その包みをゆっくりと解く。
そして少し中身が見えたかと思った拍子、エースの目の前に高々と突き出した。
『おにぎりです!』
見れば、分かる。何の変哲も無い、おにぎり。
三角形で、海苔がまかれて、きっと真っ直ぐと言うレールの上を歩くの事だ、
中身は梅干や鮭と言ったベタなものだろう。
嬉々と花開いた表情はまるで子どものようで、見せびらかすの様子を見たエースからは思わず笑みが漏れた。
『、おにぎり持ち歩いてるとか、お前なかなかやるな』
『武士が戦が出来ぬと言うように、お腹が空いては勉強も捗りません』
『受験戦争・・・、まさに戦・・・』
『エース君は参戦してませんけどね、全く』
『す、するするする!するよ!!』
『そうなんですか?』
エースが慌てて返すが、はきょとんとした顔をしておにぎりを頬張る。
が志望する学校へ自分が行けるなんて微塵も思っては居ないが、
彼女が志望する学校を受けようと思っているのも事実。
先程言った通り受かるとは微塵も思っては居ないが、実は、一ミクロンの希望は持っていたりする。
どうせならこれからも一緒の時間を彼女と過ごしたい。
だから努力はしている。自分が出来る、今までで一番、最上級の努力を。
『エース君、手を出してください』
『は?』
『手ですよ』
おにぎりを早くも食べきったは、出て来ないエースの両手を引っ張り出すようにして掴んだ。
グッと自分の手を握り締めた掌は小さくひんやりとしていて、エースは動きを止める。
ただ手を握られただけ。けれどその瞬間、全身の血管を熱い焔が駆け巡るかのような衝撃が走った。
『はい、食べてください!言っておきますが今は仲間でも試験ではライバルです。お互い頑張りましょう』
はもう一つのおにぎりを鞄から出すと、エースの掌に乗せる。
じっと自分を見つめる瞳はキラキラと輝いていて、
エースは頭で思う事を言葉に出来ず口をポカンと開くだけしか出来なかった。
――勉強への熱い気持ちを吐き出したいならどうか自分じゃない相手にしてくれ。
、お前は分かっていないよ。
全世界の人が自分の事を一見で理解しようとも、にはきっと、いや、到底一生をかけたとて理解なんて出来ない。
お前みたいな勉強バカには、「おれがどんな情けない表情をしているか」なんて問題、一生解けないだろう。
『・・・ばーか』
『バッ・・・?それは私に言ってるんですか?』
やっと出た言葉。でも、ほら、やっぱりは分かっていない。
エースが頭を抱えるようにして空を仰げば、秋の風に吹かれたうろこ雲が薄っすらとピンク色に染まっていた。
たぶん
きみがおもうよりも
(ヒント:ぼくの顔はあの雲と同じ色をしています) 2012/09/21
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