周りにバレないよう祝いの宴を途中で抜け、自室に戻った。
誰もいない暗い部屋、明かりを灯し椅子に腰掛ける。
傷一つない真新しいライターを胸ポケットから取り出した。
懐かしい自分の故郷の風景が彫刻されていて、そっと撫でる。












「よく見つけたな、寂れた島だってのに。」
「マルコが話してくれたから必死に探したのよ?」
「探せばあるもんなんだねい…。」
「いや、無かったから彫ったの。」






本を基に自分自身で彫ったと言う
その言葉に驚きよく見てみると所々余計な傷があって。
決して手先が器用ではない彼女が気持ちを込めてくれたのだろう。
もう二度と拝むことができない故郷とこんな形で会えるとは。
二つのことが嬉しくて、素直に微笑んでしまった。






「ごめんね、マルコ。」
「何がだい?」
「誕生日、一緒に祝ってあげられなくて。」






いつもの輝く笑顔はどこへやら、俯いてしまった。
タイミングが悪く任務で船を離れることになった10番隊。
そこに所属する彼女ももちろん離れるわけで。
三日ほどで帰ってこれる任務だが、誕生日は二日後。
少しだけ時間が足りず、彼女と共に過ごすことはできなさそうだ。












「気にすんなって言ったのは俺じゃねえかよい…。」






二日前のとの会話を思い出し、苦笑する。
いつ祝ってもらおうがその気持ちが嬉しいと彼女に告げた。
だから何も気にせず行ってこいと笑って言った自分。
こんな風に気分が落ちている自分を見たら彼女はなんて言うだろうか。
がいない今日という日を恨めしく思う自分が情けない。
煙草に火を点けたと同時に子電伝虫が静寂の中、鳴り響く。






「…?」
「よかった、部屋にいたんだね。」






聞こえてくる彼女の声に自然と頬が緩む。
離れているときでも連絡が取れるようにと以前、街で買ったものだ。
が寂しくならないように買ったわけだが、それは逆だったかもしれない。
いい年してここまで恋に溺れている自分に気付く。
そんなもの遠い昔に置いてきたつもりが、臆病なだけだったか。






「宴は?もう終わったの?」
「いや途中で抜けてきただけだよい。」
「主役がいなきゃ意味ないじゃない、どうしたの?」






ちょっと疲れただけだ、とこの話題が膨らまないように交わす。
お前がいなくて寂しかっただけだ、なんて誰が言えようか。
いつから自分はこんなに甘ったれになったんだろう。
甘える事を忘れた自分にもう一度教えてくれた彼女の魅力は
誰に何度問われようが言葉にできないな、と。教える気もさらさらないが。






「もう…本当に素直じゃないね。」
「俺はいつでも正直だと思うがねい。」
「また強がり言って…」






「そんなんじゃプレゼントあげないよ?」笑みを込めた声で話す
彼女は一体何を言っているのだろう、もうプレゼントは貰ったというのに。
意味を聞こうとしたとき、先ほどまで無かった部屋の空気の流れに気付いた。
(ああ、こいつは本当にやってくれるよい)
高鳴る胸、ここで知らないフリをするのが礼儀だろうなと笑いを堪える。






「もう貰ったじゃねえか。」
「プレゼントは一つとは限らないでしょ?」




























彼女の鼓動、囁き、ぬくもりが届くまであと三秒。




























吃驚した?と、早く
      (彼女の仕事の早さを今になって思い出した)










早く、早く、これ以上のお預けは耐えられないんだ



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