ぐぃ、と抱き寄せた身体は細くて頼りなく、エースは一度収めた身体を引き離した。 自分の両手を相手の腰に回したまま顔を上げても十分に有り余る。 目の前に居るは、自分よりずっとずっと小さいと気付いた。

『・・・、お前ってこんなに細かったっけ?』
『え?何それ急に。お世辞?』
『いや、細いなと思って』

やけに大人しく椅子に座るエースが料理を運んできたを抱き締めて数秒、やっと声を発したと思ったら、呆けたように呟いた。 大食いの彼の為沢山の品数を作ったは、エースのそれは労いの言葉かと思った。 腕を回されて動きにくいまま大皿をテーブルに置いて、エースと向き合う。

『いやいやいや、普通だから。あれ?嫌味だった?』
『違う』
『・・・なんかエースおかしいよ?』

がそう言うとエースは何も言わずをまた抱き締めた。 見慣れたエプロンから食べ物の良い匂いがする。 こうやっての部屋で同じ時間を共有するようになってからどれくらい経っただろうか。 彼女は確実に自分を侵食して、今や無くてはならない存在になっていた。

『あー、多分』

エースは更に顔を埋める。今の表情はちょっと、見られたくない。 後頭部しか見えないようにしっかりと動きを固定すると息を吐くように声を漏らした。

『・・・おれ、最近お前が好き過ぎて、ちょっと辛い』
『何それ』

しかし確実な温度差。は眉間にシワを寄せてエースの頭をわしわしと撫でる。 いつも元気なエースがどうしてか感傷的になっている様は、実はちょっと可愛くて興味深い。 わくわくするような、切ないような、けれど珍しい様子を真摯に受け止めようと言葉を待った。

『・・・分かんねぇけど、お前が居なくなったらこの世からおれの幸せ全てが消えちまう気がするんだ』

エースの頭を撫でていたの手が、ピタリと止まった。 腰に回された腕が力強くて息苦しい。呼吸を止められそうだ。それに、肌に食い込むエースの指が背中に痛い。 ギリ、と肉を裂いてしまいそうなそれをエースは気付いていないようだ。 このままエースの気持ちに押し潰されてしまいそうだったが、は辛うじて息を吸い込み声を出す。

『居なくならない、よ?』

そう言ったはエースの全てを包むように抱き締めた。 相変わらずエースの力は強い。身体に力を入れてあげてしまいそうな声を抑える。

、』

更にエースの力が強くなった。
彼の身体は熱く、触られた部分は感覚まで焦げてしまいそうだ。 しかし反対に声は力なく、弱く、掠れている。は瞳を閉じてエースに寄りかかった。

『・・・お前って、強いな』
『へへ。敵わないでしょ?』

身体とは別に、顔はふんわりとしたエースの髪で、くすぐったい。 その反比例する麻痺してしまいそうな感覚にはまどろみ穏やかに笑う。

『・・・ああ。敵わない』

エースは顔を上げての頬に両手で触れると、そのまま身体を起こして乱暴にキスをした。 この行為に愛を確かめるような甘い人間的な部分は何も無い。



ただただ獣のよう、血肉を食べるように。
全てを手に入れようと、心から掴むように。

自分のものだと、本能に言い聞かせるように。








耽溺ショコラトル
(お前が居ないと生きていける気がしねぇ)
2011/07/14



back

まゆさま!リクエスト有難う御座いました! 曲のお題と言う事で。あの曲をググったところ「人生の風味(苦味?)」的な意味と書いてあったのですが、 阿呆なわたくしには良く分からず、結局は自分での解釈が大きくなってしまいました。変だったらごめんなさい。 わたくしの解釈した所、エースは人生において、まゆさまが居ないとダメみたいです。 ちょっと荒くなるくらい愛が止められないんですね^^
ではでは、リクエスト有難う御座いました。これからも宜しくお願いします!