『そろそろ閉店?』

静かに看板の明かりを消したエースに、は問いかけた。

『帰らなきゃ。最近ついつい居すぎちゃう』

の言葉に頷いたエースから腕時計に視線を落とせばとっくに終電は終わっている。 ルッチがドアを開けて最後の客を見送っていると、更けた夜の空気が入り込んできた。 ひんやりとして、澄んでいる。

『家の近くでこんな良いバーがあったら、そりゃ入り浸るな』

が手に持つグラスをコースターの上に置くと、減り具合を見たエースがにやりと笑う。 自分だってそうなるだろうな、なんて零しながら勝ち誇った顔をしているのはほぼ毎日こうやってが来店してくれるからだろう。 エースは仕事を忘れたかのように制服のネクタイを緩めると自分の分のアルコールを少しばかり煽る。 そして喉を軽く潤した所で後ろを振り返ると、ずらりと並べられた酒棚から幾つか瓶を選んだ。

カラカラと氷の音を鳴らし、シェイカーを振る。慣れた手つきと規則的な音を奏でた後、エースはゆっくりとグラスにカクテルを注ぐ。 見たことも無いようなカラフルな色だ。は鮮やかな一連の流れをただぼぅっと眺めていた。

『それ、に飲んで貰え』
『ルッチさん』

すると、パントリーから出てきたルッチが視線で合図を送る。 店員だけではなく、心を許せる常連に味を見て貰うのは良い経験になると思ったようだ。 ルッチはエースの返事も聞かず、置かれていたグラスを手に取りの前に置く。 そしてきょとんとするの前で静かに笑った。

『エースの試作品だ』
『・・・頂きます』

エースをチラリと見た後、はグラスをゆっくりと傾けた。 二人の期待の眼差しが、こちらを見ているのが分かる。 期待に応えようと舌の上でしっかりと味わった後、グラスを置いた。

『・・・うん。美味しい!』

お世辞じゃない、本当に心からの言葉だ。口から漏れたような感想の声は二人に伝わっただろうか。 エースは身を乗り出してへと問う。

『どう美味い?もっと詳しく言葉で』
『えー・・・?なんかこうフワっとして甘くて、優しくて、んで・・・』
『いや、もう何も言うな。言いたい事が分からん』

一生懸命に言葉にしようとするの前にエースの手がずぃっと向けられ、それ以上を止められた。 言いたい事は伝わっていないようだ。 苦笑いを浮かべたサッチはもう一度パントリーに戻ったが、心の中では何を思っていたのやら。



『あ、帰らなきゃって言ってたんだった』

裏へ隠れたサッチの背中を見送ったは、そろそろ帰ろうとしていた事を思い出した。 グラスも空いた事だしと、いつものように代金を置き席を立ったその時。

『待て、送る』

珍しくエースがカウンターの中から出てきた。

『何それ、家すぐそこだよ?15秒だよ??』

店の重いドアを開けたは顔を顰めて通りを指さした。 ひんやりとした空気が流れる目と鼻の先に、自分の家はある。 確かに遅い時間だが、「送る」だなんてこの距離の何を見て言っているんだと。

『・・・こうやって見送るのはもう限界なんだけどな』
『は?でも帰らないと明日も仕事だし・・・』
『だー!そうじゃねぇよっ』

更けた夜にエースの声がの耳を鋭く通り過ぎた。 それでもなおまだぽかんとした表情のに、エースは真剣な表情を向ける。

『あのな、あのカクテルはお前の事を考えて作ってんだ』
『・・・え?は?何が?』
『酔ってんのかよ!』
『いや、酔ってないよ。これでもちゃんと考えて飲んでるし・・・』
、』

不意に低く落ち着いた声で名を呼んだエースは、一歩近づいてそのままを抱き締めた。 突然すぎて、驚きの声もあげられなかった。ひゅっっと息を呑んだだけで、そのまま身体は凍り付いてしまったようだ。 どうして良いのか、どうしたら良いのかも分からず、ただ硬直した身体で唯一動く視線を彷徨わせる。 随分日々を重ねてきた付き合いだとは思っていたが、はエースのこんな声、知らない。 こんな顔も、こんなに強い力も、熱い手のひらも、知らない。



『おれ、もう我慢出来ない』

知らない。まるで普段から想像もつかないほどの甘い口付けをするなんて、








魅惑エトランジェ
(毎晩会ってるんだからおれの想いに気付け、バカ)
2011/07/21



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かんなさま!リクエスト有難う御座いました! バーテンエースw考えただけで素敵です。ちゃんとしっかりネクタイを締めて接客してたらもっと素敵です。 んで、就業後には緩めて後片付けとかもっともっと素敵です。ってか素敵過ぎて倒れちゃいます。 スタイルが良いので何着ても似合うでしょうねぇ♪なので、きっと彼目当ての女性客は多いと思います。 でも、かんなさま以外の女性客にはそっけないと良い!彼は好きな子にだけ特別な筈!ああ、また妄想が広がりそうだ。 ここで打ち止め。いつかまたバーテンエース書きたいです!
ではでは、リクエスト有難う御座いました。これからも宜しくお願いします!