『おい、船が出るぞ。』
そんな愛船を然程遠くない場所から人事のように眺めていたエースは座っていた崖岩から立ち上がって後ろを振り向いた。 かぶっていた帽子を背に預け、賑やかに海へと出向する船を指差す。
『・・・もう陽が沈むのに、出航なんて』
、と呼ばれる少女はエースの声を聞いても振り返らなかった。 あの船から聞こえる威勢の良い声が聞こえないわけではないけれど、今は無関心だと言っている顔つきだ。 白いワンピースを膝まで捲り上げた素足は、ただ浜辺に沿ってあっち、こっち、とフラフラと歩く。 時々手に持つ細い流木で何かをさらっているようだが、エースには何のことだか分からなかった。
『仕方ねぇだろ、ログがたまったんだから。で?行かねぇの?置いてかれるぞ』
『行く、ストライカーで』
が動くとさく、と砂浜は小さく音を立てる。 相変わらずエースを振り向きもしないは漂流した「何か」を見つけると、顔色を変えてその場所にしゃがみ込んだ。
『なんだ、ストライカーがあるの知ってたのか』
『エースはいつも、皆を心配してくれるから。またストライカー出したんでしょ?』
その言葉に、エースは何も言い返せなかった。
今回はが一人で居るのを見つけてストライカーを用意したが、そうじゃなくても大抵船を用意しているから。 それは今回のように乗り遅れた間抜けな船員を拾う為だ。 買出しに行ったり、探索に行ったり、狩りに出かけたり。時には喧嘩に巻き込まれたり巻き込んだり。 それで迷ったり怪我をして帰ってくる場合、指定の時間に間に合わない奴がいる。 大体の海賊は置いて行ってしまうものだが、彼らは船長の家族だ。 船長の大事なものは自分の大事なものでもある。 だからエースは一人と欠けることが無いようにいつも気を配っていた。
だから彼女の言う事は本当。でも、言い返したかった。 家族だから船員の皆を心配しているのは「本当」だが、特別心配している人物が自分には居るってこと。
『まいったな・・・』
まぁ、特別だと言ったとしても、今振り向かない彼女の反応と同じ反応が返ってくるんじゃないかと思う。 自分達の、まるで兄弟のような仲良しぶりは船内でも有名な話で、 更に自分の熱烈片思いも船内では誰も知らないものは居ないほど有名な話だ。 だが彼女だけはそれを知らない。 は家族だから心を開いているんだろうが、自分はそれで仲が良いのではない。
華奢で儚げな後姿に、なんなら今言ってしまおうか、とエースは岩辺を蹴って飛び上がる。 ひらりとの後ろに着地し、同時に軽い音と砂を吹き上げたことで、やっと想い人は振り向いた。
『うわ!砂飛んだ!』
『・・・すみませんね』
慄くエースを顧みたはついでに顰めた顔も向けた。 エースは引き攣る笑顔を返すが、ふい、と視線を逸らされてしまった。 ああ、振り向いて欲しいのはそんな顔で、じゃないのに。
『・・・ん』
頬を膨らませて振り向いた途端、の足に違和感があった。 何度かまたたいた後、ひょい、と足を上げてそれを確認する。瞬間、の瞳が輝いた。
『メノウだ!!』
が「誰も取らないのに」と言いたくなるほど急いで拾い上げ顔よりも高い位置に掲げたのは、 コインほどの大きさの赤い石だった。大きい、とか綺麗、とか言っているがエースには何のことだか分からなかった。 首を傾げて見ていたが次第に、満足そうにしている笑顔が、可愛いなんて思った。
『浜辺はね、色々なものが流れてくるから着いた時は時々こうして探すんだ』
『・・・知らなかった』
『忙しいからね、時間がある時だけしてた。やった!こんな大きさのもの見つけられるなんて!』
そう言ってはその石を覗き込む。 赤い空から振る光りに透かして。
『で?何それ?メロン?』
『メ・ノ・ウ!瑪瑙よ!、蛋白石や石英とか玉髄が層状に岩石の空洞中に沈殿してできた鉱物の変種』
『ふ〜ん??』
『どうせ分かってないんでしょ。兎に角珍しいの!こんな赤くて大きくて綺麗な瑪瑙は』
確かに綺麗だ、とはエースも思った。 けれど彼女が言うほど感情移入できないのは互いの趣味のせいと言うか、自分の無知のせいと言うか。
『あの落ちかけの太陽と同じ色。私の好きな色』
そんな事を思っていると、は呟くように声を漏らした。 確かに海の向こうに見える「落ちかけの太陽」と同じ色だ。
の隣に並び覗き込むと、丁度大きさも同じくらいで、彼女の前にはまるで二つの太陽が在るように見えた。
『そう言えばエースもあんな色だよね。ほら、焔の色』
そう言ってはエースに笑顔を向けた。その笑顔の何と可愛いこと。
海は穏やかで不規則な波音が辺りを包む。 今此処にあるのはの声と波音、柔らかい砂、塩の香りを含んだ風と、二つの太陽。 もう大分遠くに行ってしまった愛船が一つの瑪瑙による逆行で陰だけになり、まるで一枚の絵画のような風景が広がる。
『・・・じゃあさ、おれのことも好き?』
エースは笑顔を向けるへと視線を返す。しっかりと瞳を見て、ごくりと喉を鳴らした。
『え?そんなの、色抜きにしたって好きに決まってるじゃない』
「変なの」と、が笑ったと同時に二人を撫ぜるような風が吹き、のさらりとした髪だけを浚う。 けれど反対に、真綿のようなふんわりとした風はエースをその場に崩れ落ちさせた。
『おっ・・・!!』
『あれ?』
何か声を発したけれど、突然膝と手をついたエースは跪いたまま顔を上げなかった。 驚いたは慌ててエースの顔を覗き込むが、癖のある髪の毛がその表情を隠し、震える背中だけが見える。
『あれれ?どうしたのエー・・・』
『おれも好きだー!!』
更に顔を覗き込もうとした瞬間。がばりと身体を起こしたエースがに抱きつく。 瞳を大きく開き「何をしているんだと」言いたかったが、 反射的にぐえ、と女らしくない声を漏らすくらい強い力に、は何も言い返せなかった。
迂闊ラブスコール
(よし!オヤジに報告だ!!―あれー??そっちの意味ー??)
2011/06/03
(よし!オヤジに報告だ!!―あれー??そっちの意味ー??)
2011/06/03
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ミキさま!リクエスト有難う御座いました^^ エースの勢いの在る告白、と言う事で。うちではこんな感じになりました。 うちのエースは基本