高い空に輝く海、芝生の心地良い甲板と、鳥の鳴く声。 テーブルの、端の端まで山積みになった色とりどりの果物を一つ手に取ったはそれらを眺めたあと、この状況に満足だと言わんばかりの笑みを零した。

『悪いね、レディにこんな事手伝ってもらっちゃって』

の正面の椅子に腰掛けていたサンジは、器用にナイフを滑らせながらそう声をかけた。 は意図せず不意なものだった声に少しばかり慌て視線をいつもの高さに戻すと、 沢山在る果物の合間から覗き込むようにしてサンジへと返す。

『悪くなんてないですよ。船長、いっぱい食べますからね。サンジさんほど上手には出来ませんけどお手伝いさせて下さい!』

そう言って、遠くを見ていた時と同じような瞳ではちらりとサンジの手元を見る。 彼の隣の大皿には、既に大量の果物がまるでタワーのように積み飾られてあった。 彼の手にかかればどんな果物だってあっと言う間に綺麗で芸術的に飾られる。 ほら、たった今スルスルと手から落ちる果物の皮まで美しくて、思わずはぽかんと口を開いた。

『どうしたの?』
『い、いえ!何でも・・・っ』

の視線に気付いたのか、サンジは首を傾げて笑みを向けた。 それでも手元は休まることは無く次々に美術品を作り上げていく。 細くて、長い指。そしてまるで「男性」な大きな掌なのに、どうして繊細な女性の、魔法使いのように見えるのだろう。

『何でも、あるでしょ?』
『うぇ?』

サンジの言葉に、は変な声で反応してしまった。 彼には自分の考えている事が分かったのだろうか。

『料理をするサンジさんは格好良いなー、とか、惚れ直しちゃう、とか』
『違います!!』

が即答するとサンジはハハ、と声をあげて笑った。
そんな彼を見ては小さく嘆息をする。サンジは時々、冗談なのか本気なのか分からない時があるから。 料理をする姿、まぁ今は皮をひたすら剥く姿だけれどもそこは格段素敵だと思う。 勿論戦いに身を投じる姿だって光り輝いているけれど、そう茶化されると素直に褒め言葉も言えない。 それに、彼は女性を好きなようだが、誰が特別好きで誰を一途に想っているのかも分からない。 そもそもそんな想い人がこの騎士には居るのだろうか。



ちゃんもフルーツ、食べる?』

そんな事をぼんやりと考えていたに、サンジは林檎を一欠けらを差し出した。 うさぎの細工を施され、は思わず笑顔を浮かべたが、剥きかけの果物を持っていると気付きまわりを見回す。そして、

『今両手塞がってますから、そこのお皿に・・・』

が後で食べると、そう言った時だった。

『はい、口開けて』

あたかも自然にの前へと距離と詰めたサンジは、うさぎの林檎を口元へと運ぶ。 サンジの嬉しそうな表情を見てコレは何だ。どう言うことだ。後で食べるって言ったのに、と思ったが。

『・・・あの??』
『はい。どうぞ』

眩しいほど青空から降る光りに照らされたサンジの髪はキラキラと輝き、 笑顔は穏やかに浮かべられ、声は低く耳に響いた。 それのせいなのか、どうしてなのか、はただ目の前に居るサンジに純粋に見惚れそれ以上なにも言う事が出来なかった。

差し出された林檎とぽかんとした自分の距離はもう然程無い。 観念したように口を開くと、サンジはゆっくりとそれを入れてくれた。

『美味しい?』
『・・・良く分かりません』
『え?』

サンジは美味しいフルーツを買ってきたのにおかしいなぁ、と首を傾げたがは本当に良く分からなかった。 「味が」良く分からないと言うか、「サンジが」良く分からなかった。 優しく笑ったり、ふざけて笑ったり、時々、男の人の声を出したり。

『あれ?ちゃん、赤くなってる』
『え?!ウソッ!?』
『うさぎさんの赤がうつっちゃったかなー?』

笑うサンジを他所に咄嗟には声を荒げ周りを見回した。 別に誰が見ているわけではないし、見られて困ることをしていたわけでもない。 どちらかと言えば当人が恥ずかしいだけの行為。 ただ、自然と熱を帯びていた自分に気付けなかったのは不覚である。

『あの、私・・・』

は自分の呼吸が乱れていくのが分かった。そして顔がどんどんと熱くなっていくのも。 誰かに助けを求めるよう彷徨った視線を受け止めたのは、紛れも無く動揺させた本人で。

『・・・大丈夫。とっても可愛いよ』

サンジは甘い声でそう囁くとの唇をそっと撫ぜた。 人差し指と中指の指先で、硝子細工にでも触れるように。

『な、撫でた・・・っ!!』



前言撤回だ。
もしかしたらこの人は、人が思っている事を分かっているのかもしれない。 「冗談なのか本気なのか分からない時がある」と思っていたが、 昔聞いた倭の国の昼行灯みたいに普段はヘラヘラと笑って周囲を騙し自分を誤魔化しているのかもしれない。 本当はきっと、人の心を読むのが得意なのだ。

は椅子から立ち上がりニ、三歩と後退した。 今まで見ていた笑顔がもう純粋なものだと受け入れられない。

『もう一つ、食べる?』
『け、結構ですっ!!』

真っ赤になるを見てサンジは満足そうににっこりと笑った。
彼の後ろ、視界いっぱいに広がる青い空のような、清清しいほどの笑顔で。








青空タクティクス
(終わらないよ。僕だけの君になって欲しいから)
2011/06/03



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エリさま!リクエスト有難う御座いました^^ 「ちょっとSなサンジ」でしたね。・・・ん?あれ?S?Sってなんだっけ??(←ヲイ) うちのサンジはヘタレだったから、今回はこれでも背伸びしました。モチ子的には限界MAX。 物足りなかったらスミマセン。でも、このまま恥らう彼女をモノに出来たら良いですね!頑張れサンジ!